「素晴らしき嘘をつく」
書体を作成していて大体の形ができ、微調整を繰り返すたびに思う。
素晴らしき嘘をつこうと。
なぜならば、人というものは目が2つあり、左右のズレから生じる「錯覚」という現象がおきるから。また、左右だけではなく上下の判断も正確にできないような、元々狂いがある残念な動物だから。
例えば「H」の真ん中の横線は上下の中心に置くと下がって見える。だから数ミリ上に置くと落ち着いて見える。それと両脇の縦線と真ん中の横線の太さを同じにすると、真ん中の横線は太く見えてしまう。だから真ん中の横線は横線より数ミリ細くする。例えば「D」の左の縦線と右のアールの線の中心の太さを同じにすると縦線が太く見えてしまう。だからアールの線の中心は縦線より太くする。
このような「錯覚」は他にもたくさん存在する。
モニターに移し出される数値化された「正確」は、人には「正確」ではない。
だからこの「錯覚」を意識し「正確」な「嘘」をつく。
残念であるがゆえに素晴らしいのは「嘘をつく」ことではなく「正確に見えること」ことである。そんな素晴らしき嘘をつくために表現する。
* * *
もうすぐ上の見本でアップした書体をリリースします。
フォント名は「COM4t Famie Black」です。
これは昔リリースした「
Familian」をリデザインしたものです。
新たに膨らみを足して、さらにやわらかく表現しました。
また読みやすさを考慮して長体であったものを正体にし、
「A」「a」「M」「&」を大きく変更しました。
それに併せて他のキャラクターも少し変更しています。
書体名は「
Familian」の言葉の響きを感じられて、なおかつまったく新しく生まれ変わったイメージを持たせたいと思い、「Famie」にしました。
「
Familian」は家族を大切にしている方々に使ってほしいと願い命名しました。今度は「Family」に「ie」を足して、さらに「Home(家)」を意識しました。
「
Familian」はともやさんが運営しているサイト「
FUKUTOYO」をイメージした約10年前のフォントです。「福島からの便り」を略して「
FUKUTOYO」と名付けられている通り、福島で家族との日々を写真と日記で暖かく表現されています。
10年経っても変わらず好きなサイトであり写真達です。
この書体は3年くらい前からコツコツとリデザインしてきた書体です。あともう少しでアップできると思っていた矢先に東日本大震災が起き、福島ではあのような事が起きてしまいました。
正直迷いました。「今だからこそ支援という表現でこのフォントをアップしよう」とか考えましたし、逆に「そういう人の不幸を踏み躙った、いやらしい表現は良くないからやめよう」とも思いました。でも書体はできている。アップしてみんなに使ってほしい。それはこのフォントも変わらず想って作ってきた。でも私の中のどこかでブレーキがかかる。だったら支援とか考えずに表現したら良いんじゃないか。でも「
Familian」のリデザインフォントということは「福島」というキーワードがみんなに浮かんできてしまう。でも、でも。。。どうしたら良いのかわからない。
だから私は自分に嘘をつきます。これが正解なのかはわからないし間違っているのかもしれない。ましてや素晴らしきことかどうかなんて今の私には判断できない。でもやらないよりやった方がいい。それだけはわかっているから。
自分自身に素晴らしき嘘をつけると信じて、この書体をアップしたいと思います。
身勝手ですみません。
posted by KATAYAMAC at 05:19
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