
flowers 07/09/03
またまたちょっとエッセイ風味で思い出話をひとつ。
* * *
「未完成」って好きなの
この言葉を聞いたのがもうかれこれ30年近くも経つ、私が小学生6年生の時だ。卒業文集の最後に記す「私の好きな言葉」のところで、その当時好きだった女の子が書いた言葉だった。彼女の顔もおぼろげに思い出せるぐらいになってしまっているのだが、今でもこの言葉だけはずっと心の奥にひっかかっている。
卒業文集に印刷する色紙を取り囲みながら、みんなが輪になって騒がしく書いていた光景を思い出す。その時、私は彼女の横にくっつきながらどんな言葉を書くかずっと見ていた。実は自分はなんて書こうかずっと迷っていて、彼女が書く言葉をヒントにしようと思っていたのだ。しかし学年でトップクラスの成績の彼女が書く言葉は、私の頭脳では追い付かない言葉を書きはじめた。すごく素直で且つきれいな文字で「未完成」と。
たぶん「努力」とか「忍耐」とか「家族」とかもうみんなが書いていた言葉が来ると思っていた私には意表をつかれ、「なんで未完成?」とアホ面で聞いていた。
「なんか未完成って好きなの。完成したらもうおしまいでしょ?」
とまっすぐな視線で言われて「ふーん」としか返せない自分。おどおどしながら私は何をヒントにしていいかわからない。彼女が言っている意味がさっぱりわからなかったからだ。それで咄嗟に誰かが書いた言葉を見つけて同じ言葉をマネして書いた記憶がある。でもなんて書いたかはもう忘れてしまった。心にもないことを書いたのだから30年近くも経てば当然だ。でもこの時に交わした言葉や自分の気持ちは今でも鮮明に覚えている。人の記憶というのは何がインプットされ続けるかわからないものだ。
今、「あなたの好きな言葉はなんですか?」と聞かれれば「次に作るものが一番」と決めている。これはあの喜劇王チャップリンの言葉「Next one is better one.」をマネしているのだが、これも「未完成」と同じ意味を含んでいる。この言葉を知ったのが中学生の時だったから、もしかして彼女の言葉がどこかにひっかっていたから見つけた言葉だったのかもしれない。
私が初めて言葉について真剣に考えさせられた時だったと今になって思う。