この出来事は、今後いい思い出として残しておきたいので、ちょっとエッセイ風味で書いてみようかな?
あの日は昼過ぎに目が覚め、カーテンを開けると眩し過ぎるほどの太陽光線が、熱を帯びずに部屋の中に入り込んでくるような昼下がりだった。外は意外に寒いだろうし、このまま部屋でのんびりテレビ三昧を決め込むのもアリだと考えたが、本屋へ行きたいことを思い出し、重い腰をあげて寒い中、自転車で10分くらいで着ける行きつけの本屋へ向かった。
この本屋は3階建てのちょっと大きな造りの本屋で、建物自体が古く、間取りが変わった構成になっている。だいたいの本屋さんはワンフロアーをいくつかの本棚で仕切ってカテゴリー分けをしているが、ココは間取りや段差で構成するといった具合だ。うまく伝えることができない自分が歯がゆいが、とにかくココの本屋は好きで良く行く。
1階には「児童書コーナー」という絵本とかがたくさん置いてある子供専用の部屋がある。ボクはその部屋の近くで建築にまつわる本を見つけ(タイトルは忘れてしまった)、さも建築に詳しいような顔をして読んでいた。
たぶん10分ぐらい読んでいたように思う。少し立ち読みが疲れてきた頃、ふと横を見ると小さな男の子が児童書コーナーから飛び出してきた。「やれやれ、本屋で走っちゃいけないよ」と内心思いながらまた本を読もうとすると、その男の子が「雪ダルマ作ってあげよっか?」と、その部屋の奥にいる誰かと大声で話している。すると母親らしき人が「こっちに来なさい!」とその子を叱りつけるように言っているが、その部屋から出ようとしない。たぶんもう一人お子さんがいて手が離せないようだ。
「雪ダルマかぁ」と脳裏をかすめ、その子が持っている絵本を見ると「スノーマン」をしっかりと握りしめていた。ボクが大好きな話だ。「へぇ〜」とその子の顔を見たら目が合ってしまい、お互い気まずい雰囲気になった。するとたぶん本屋ではしゃいだ事がまずかったと思ったのだろうか、それともおじさんに睨まれて(睨んではいないが)間が悪くなったのか、ボクの方へそろそろと近付いてきて「雪ダルマ作ってあげよっか?」とボクに向かって言ってきた。「おっちゃんにはいいや」とその子の目線までおりて言うと「雪ダルマつくれるよ!」とまだ言ってくる。「すごいね〜」と応えてあげるとうれしそうに笑顔で「今度作ったの見せてあげる!」と言って元気よく走り去っていった。
でも最近、この辺りで雪が積もったという記憶がほとんどない。積もっても雪ダルマが作れるほど積もるのは郊外ではあったが、都心部ではなかったと記憶している。だからあの子には可哀想だが今年はスノーマンの話のように自宅の前に雪ダルマを作るのは難しいだろうなと思っていた。
そしてこの出来事を忘れかけていた日、またあの日と同じようにカーテンを開けると銀色の世界が広がっていた。「うわ〜スゲ〜」と思わず声が出てしまった。前日にテレビやネットで天気予報を見ていなかったので、驚きは倍増した。
この雪景色を見て、あの時の「今度作ったの見せてあげる!」という言葉が浮かび、なぜか約束を守ってくれたんだと勝手に解釈した。雪ダルマではないけれど、あの男の子に雪を見せてもらっている気分になったのだ…。本当にキレイだった。「これから元気にスノーマンを作って、あの時ボクに見せてくれたあの笑顔で、うれしそうに母親に見せるんだろうなぁ。」と、思いを馳せながら見る雪景色は格別で、とても幸せな気持ちになった。
* * *
この本屋というのは「正文館本店」のことです。
Webサイトはこちら↓
http://www.shobunkanshoten.co.jp/honnten/honten.htm
そして「スノーマン」。いい話だ。
この空を飛ぶシーンでいつも泣いてしまう。
"The Snowman" - "Walking in the Air"