07/01/19

■ 月が笑ってる

続きを書くのが1日遅れになってしまいました。
この話は以前サイトに2001年ぐらいに載せてたもので、8年前に書いたエッセイです。



月が笑ってる

Essay : May. 4. Mon. 1999.
Essay by Hideki Katayama


4年程前のことになるかな。
夜8時頃、自転車でいつもより遠くへ行って、あまり知らない道を走っていた帰り道のこと。突然、小さな女の子がひとり「すみませーん!」と声をかけてきた。かなり慌てている様子で「すみません。加藤病院はどこですか?」と訪ねてきて、びっくりして自転車を止めて立ってみると、私のへそあたりまでしかない、見た感じ小学生に成るか成らないかぐらいの小さな女の子が、こんな暗い夜道にひとりでいるなんてどういうことなんだ。しかも病院を探しているとは…。

始めて通った道でもあるし、最近、病院にお世話になったことなどない私にとって
知る筈もなく、「わかんないなぁ。ごめんね。」とそのまま立ち去ることもできたが、今にも泣き出しそうな寂しい目を見ると、そんなことはできなかった。誰かに聞こうと思い、辺りを見回すと小さな家電屋があったので、「ちょっとわかんないけど、あそこの電気屋さんに聞いてみヨ」とその子の手を引き聞いてみることにした。店の女主人が「その大きな公園沿いを歩いていった所にありますよ」と教えてくれたが、夜も遅いしひとりで行かせるには危ないと思い、私もついて行くことにした。

「お父さんかお母さんのお見舞いに行くのかな?」と訪ねると、
「ううん、今日はみんなで焼肉食べに行くの。」
「それで、加藤病院で待ち合わせしたんだけど、バス停間違えちゃって。」
「昼間、よくバスに乗るんだけど、夜だと真っ暗でわかんなくなっちゃった。」
と、事の経緯をちゃんと教えてくれた。
また、なんでこんな小さな女の子をひとりでバスに乗せて、しかも、どうして病院で待ち合わせをしたんだろうと、疑問が沸き上がってきたが、「バス3回も乗っちゃった。」と時計を見ている。「じゃぁ、お母さん、加藤病院でずうーと待ってるんだ。」と言うと、「お母さん、心配してるかなぁ。心配してるよネ?」と、私の目を覗き込みながら、また、寂しそうな目で、涙いっぱい浮かべて聞いてくる姿が愛らしく、「そりゃぁ、心配してるよ!」と私は、自分の冠っていた帽子を、その子にそっと冠せた。
寂しさと不安を取り除く為に、お母さんに会えるまでの間、いろんな話をした。どこに住んでいるのかとか、最近学校で流行っていることとか、好きな男の子はいるのかとか、好きな食べ物の話とか、いろいろと…。

まだ、春にならない雪でも降りそうな寒い夜道をふたりで歩く。
こんな小さな女の子と歩くなんてことが、今までなかった私にとって、
とても新鮮で、とても不思議な感覚だった。

「あっ!あれだぁ!」とその子が指した向こうに加藤病院の看板が見えてきた。なるほど、このくらいの大きな病院だったら、自分の娘もわかるだろうと、この子の母親も思ったのだろう…。

病院の目の前に近づいた時、ふと、看板を見上げると、
大きな満月が、その病院を照らすように輝いていた。

「うわぁ、今日は満月だ。」と私が指さすと、「月が笑ってる」とその子が呟いた。
やはり子供の感性はすごいなと思いつつ、子供の目にはそういう風に見えるのかとも思いつつ見上げると、えっ!と自分の目を疑った。もう一度、良く目を凝らして見ると、本当に笑ってる。微笑んでいるように見える。それも、頭を少し傾けながら、やさしく…。
「本当だぁ、お月さんが笑ってる。」
「お月さんに向かって歩けば着いたね。」
と、自然にそんな言葉が出ていた。すると、少しはにかみながら、
「お月さんに笑われちゃった。」
とその言葉を残し、「ありがと。バイバイ。」と私の帽子を渡して、交差点を走り抜けていった。交差点の向こうに母親らしき人がその子に向かって手を振っている。私が軽く会釈をすると、深々とお辞儀をして、その子を抱えて去っていった。

何とも不思議で、可愛く、ピュアな体験をした出来事を思い出した。
私にとって“月”と“子供”というのは、いつもセットになって思い出に残っている。
不思議だ。
多分、ふたつとも希望とか未来とか、
心のどこかでそういったものを願っているからかもしれない。

今日も月が笑っている。

* * *

この話を書いたのが8年前で4年前のことを書いているということは、もう12年前の出来事ということになる。とすると、あの女の子ももう20才ぐらいになってるってことか。なんだか信じられない。自分も歳とって頭が堅くなる筈だね。

でも、月が笑ってるように見ることができる「ピュアな部分」は今でも残っててほしいものだ。
posted by KATAYAMAC at 12:58 | Comment(0) | TrackBack(0) | Essay
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